難治性癌=肺癌の生存率向上を目指して

わが国における死因の1位は悪性新生物(癌)ですが、その中でも肺癌は1995年以降は断然1位であり、年間死亡者数は男性53,338人、女性22,056人(厚生労働省「人口動態統計」2019年)となっています。一方、北海道における肺癌死亡率は18.1(75歳未満年齢調整死亡率、人口10万年対、全国平均14.5、2015年)で、全国と比べ非常に高くなっています。この原因はまさしく男性32%、女性15%の高い喫煙率に他なりません。健診の受診率の低さに加え、がん対策の立ち遅れは医療施設のみの責任ではなく、官民一体となった取り組みが必要です。北海道大学病院では早い時期から胸腔鏡手術に着手していて、わが国における低侵襲手術の先駆的な役割を果たしてきました。最近では単孔手術といわれる一つの穴だけで行われる手術やロボットを用いた手術も積極的に行われています。しかし、一方では進行肺癌に対する拡大手術や集学的治療としての手術にも積極的に取り組み、「早い時期の肺癌には呼吸機能を温存した区域切除などの縮小手術および胸腔鏡を用いたより低侵襲な手術の追及」と「進行した肺癌には化学療法、放射線療法、免疫療法と組み合わせた外科切除の安全性の確保と治療成績の向上」を診療、研究の2本柱として現在にいたっております。北大病院における肺悪性腫瘍手術は年々増加していますが、低侵襲手術の比率が極めて高いことが本学の呼吸器外科の特徴です。低侵襲な手術を実現することは、今後ますます増加する高年齢層や耐術能の低い症例にも治療の可能性を広げることにもなります。また北海道大学病院では、われわれ呼吸器外科をはじめ、呼吸器内科、腫瘍内科、放射線治療科がキャンサーボードを介して密接に連携した診療体制をとっており、呼吸器疾患の最先端の診断から治療までを一貫して行えることが最大の魅力です。肺癌の死亡率を減少させるためには、関連診療科と連携した集学的治療や基礎医学教室との研究協力体制が不可欠です。今まで構築した体制をさらに強力なものとしつつ、新設された呼吸器外科学教室としての新たな協力体制によって相互のますますの発展が期待されます。

北海道で肺移植の実現を

我々の教室に与えられたもう一つの使命は、北海道における肺移植の実現です。日本臓器移植ネットワークに登録される肺移植の待機患者さんは年々増加しており、現在わが国では年間90例近い肺移植が行われています(図1)。しかし、日本全体で肺移植認定施設は10施設しかなく、広い北海道においていまだ肺移植の認定施設は一つもないため、肺移植を望まれる道内の患者さんには多大な経済的・地理的負担を強いています(図2)。北大病院では現在、肺以外の臓器はすべて移植できることから、肺移植が可能となると、すべての臓器移植が道内で完結できるようになります。そのため我々は、教室の総意として北大病院を肺移植認定施設として申請するべく、関係各講座との連携をはかり、着実に準備を進めてきました。また、次世代の育成として、トロントをはじめとする国内外肺移植施設への留学を継続することに加え(図3)、アニマルラボやご献体による肺移植トレーニングで技術を維持・向上させ、数年以内の肺移植の実施を目指しています。

図1「肺移植実施数グラフ」
日本肺および心肺移植研究会HP レジストリーレポートより引用

図2「日本の肺移植実施施設」

図3「写真:トロント肺移植」